視線が合う。



廊下に出るたびに、すれ違う度に視線が合う男子がいる。



――あっ、きたっ



狭い廊下ですれ違うので息を詰めて体を強張らせる。



時々体が触れそうなくらい近くをすり抜けていく彼は、
同じくらいの身長。



いつの間にか飛び抜けて小さくはなくなったけど、まだ簡単に視線が合う高さ。



近くを通る頭に、余計に自分の息遣いに気付かれそうで
私はいつも硬直する。








昔は私よりも小さかった。


最後に隣に並んだのは唐突に背を比べに来たときだっただろうか。


「あれっ、俺これ、勝ってるんじゃね?」


突然の言葉に私はうろたえて、いつもの猫背がすっと伸びた。


『いやっまだ負けてないよ!』


実際、背筋の伸びた私の視線は僅かに彼より高かった。


「ちくしょー」


彼はつまらなそうに呟いてそのまま背を向けた。







それきり。
それきりだ。



どこからか私が彼を好きだと、噂が流れていた、らしい。


彼はきっと、その噂を知っている。



そして、少し時が経って、少し背が伸びて、

今はもう私より背の高くなった彼は、すれ違う度私に視線を送りながらすり抜けていく。



未練か。気のせいか。

判断の付かない私はすれ違う瞬間、視線を落としてしまう。



それでも、せめてもの強がりに、
少しずつ遠くなる目線が少しでも近づくように、



私は、猫背を、精一杯のばす。







「―――っねえ!」




すれ違ったと思った彼が、私の腕をしっかりと掴んでいた。





「……もう、俺の方が、背高いよね。」



苦し紛れの話題に釣られて笑って、うっかり間近で目を合わせてしまった。




―――きっともう、逃げられない。