誰も、それ以上は喋らなかった。
しばらくの沈黙の後、医者と瑠衣の父親が話しているのを聞いた。
ーーそして。
今、俺の目の前に瑠衣がいる。
白い布は取られ、両親に最期の言葉をかけられている。
ーーーガラッ
「母さん……瑠衣は…」
そこに入ってきたのは、美形の男だった。
瑠衣の家族構成を詳しく知っているわけではない。
けど、おそらくは兄だろう。
お兄さんの言葉に、母親は力無く首を横に振った。
「瑠衣ね。美幸ちゃんを守ったんだって。即死だったらしいけど、美幸ちゃんの命を助けたんですって。」
その事実が瑠衣の死に対する、唯一の希望だったのだろう。

