大人の臆病【短編】

今までの想いが涙と一緒に流れてくると克己はそっと優しく親指で拭ってくれた。



その大きくて温かい手も

男なのに色っぽい唇も

私を優しく包んでくれる腕も

全部全部、私だけの物にしたかったんだ。


あなたの体中に駆け巡ってる優しい温もりを独り占めしたかったんだ。

あなたと抱き合わなければこんな心地良い温もりも知らなかったのにね。



「…雅、嫌だ。終わりなんて、嫌だ。」


その言葉に克己の顔を見ると今にも泣き出しそうな顔をしていた。


どうしてそんな顔出来るの?

大事な人が居るんじゃないの?


克己の顔を見た瞬間、戸惑いもありどうしていいか分からず克己から目を逸らした。



「…雅、俺の側に居てよ。さっき雅の特別な存在で居たいって言ったよな?」



私も側に居たかったよ。もっともっと。

近くに居たかったんだよ。