あの日の記憶



そんな幸せな時はあっという間に過ぎ…


「着いたぞ!!」


春斗の声に私は顔を上げて、自転車から降りた。


そして家に急いで駆け込んだ。


「うっ…。ひっく。」


嗚咽が聞こえる。


「紗綾?」


進むと奥にいたのは妹の紗綾だった。


「お…姉ちゃん…?」


目を腫れぼったくして紗綾はこっちを向いた。



紗綾はお父さんが大好きで、暇さえあればずっと一緒にいた。



そのため、誰よりも辛かっただろう。



私は紗綾をぎゅっと抱き締め、いろいろな言葉をかけた。


そして


「お母さんはどこ?」



お母さんが見当たらない、と ふと思った私は紗綾に質問した。



紗綾は急に泣き出し、あっち と指を指した。



…お風呂場?嫌な予感しかしなかった。



春斗がドアの前で私を制した。


怖くて震えた。



春斗がドアを開け、中を見た。それから私を見て…



首を横に振った。



じわっと目尻に涙が浮かんだのがわかった。



春斗の後ろから恐る恐る覗いた。



嫌な予感が的中した。




そこには真っ赤な血の水に服のまま浸かったお母さんの姿があった。




「ぁ…あ…あああ!!お母さぁぁぁん!嫌ぁぁぁ!」


私は絶望に浸った。


そして声が枯れるまで力いっぱい叫んだ。