「おい、結愛!お前、どこ行ってたんだよ!後夜祭前に売店で待ってるって言っただろ!?……あ、ごめん。矢井田、何かあった?」


そう言って駆けて来た真くんは、汗まみれだった。

あの大盛り上がりの人だかりの中を、かき分けて来たのだろう。


真くんは、涙目の私を見ると、荒げた声を落ち着かせた。


「ごめん、真…。でも、花音ほっとけなくて…。」


結愛はそう言って、本当に心配そうな目で、私を見た。


「あっ、ううん、大丈夫!ごめんね、結愛がそんな約束してたなんて知らなくてさ。真くんと、行って来な!私も、後で行くから、先に行ってて!」


私は戸惑う結愛の背中を押した。


「じゃあ…行って来るね。なんかあったら、電話して!」


「ごめん、矢井田。結愛、借りるな。」


すっかり恋人同士のような2人の背中を、見送った。


どうしても結愛を疎ましく思ってしまう私は、汚いのかな。



あんな人だかりの中に入る元気なんか、今の私には到底ない。


私は、盛り上がりが最好調なステージとは遠く離れた、冷たい壁に体を預けた。