夜…

船着場にたくさんの貴族がいた。

妹達は、ちゃんとご飯を食べているか

心配になる。

私、すぐ帰るよ。待っててね…

全員が乗った後、私は船の上に飛び乗り

その下に慎重に降りる。

ふぅ。なんとか降りれた…

ここの海は綺麗だなあ。

あそこの海とは大違い。

澄みすぎて、気分が悪い。

窓からこそっと中を見る。

人は、いないな。紛れこめるかな？

私の服は、全身黒で、貴族のきらびやか

さとはかけ離れているから。

ここでは、確実に目立つ。

けど、これしか服がないからな。

う〜ん…

「あの、どちら様ですか？」

「⁉︎」

き、気づかれた⁉︎

私はとっさにナイフを取り出そうとした

のだが…その人の顔を見て辞めた。

「貴方は、さっきの…？どうして、

ここへ？」

昼間ぶつかってきた、あの人だった。

胸が騒ぎ出す。気持ち悪くて、吐きそうになる。

「その見なりからして、君…

グレースタウンの子かな？」

「そうですけど」

落ちついて、冷静に。

それが怪しまれないための極意。

「何故、この船に？」

私は答えない。どう言うか迷っている。

「私は…」

言いかけた時、背後から声がした。

「拓也様？どうかしましたか？」

「ま、まずいっ！隠れて！」

えっ⁉︎

私は、すぐそばにあった物置に

押し込まれた。

ドキドキする…バレないかな。

数分して。

「ごめんね、君を押し込んでしまって」

「いえ、大丈夫です」

すると彼はいきなり、こんなことを

言ってきた。

「ねぇ。俺と楽しいこと、しよう？

それで帰ったら、見逃してあげるよ。

お腹空いてたから、来たんだよね?

俺にはこれぐらいしか、してあげら

れないから…」

泣きそうになる。泣いてはダメなのに。

「貴方、私みたいな人、嫌いじゃないの
？私は、スラムの人間、なのに」

「俺は！そんなこと関係ないと思ってる
から！他の人が、そこまで人を差別
するのか俺にはわからない。
だけど、俺は…君を、一人の人間と
して見ているから」

この人、なんで、そこまで…

あれ？涙が…なんで？

彼は困ったように笑った。

「笑ってよ。笑顔が、見たいから。

俺は、君に笑顔でいて欲しい」

そう言って、涙を拭う。

優しく、ハンカチで。

「じゃあ、行こう」

手をそっと握られた。

その手は、暖かく、優しかった。