「全く、アイリスのような奴が遅刻なんて…どうしたんだ?」

教室に入るなり女子に人気なキール先生に説教される。

「あはは…本当にすいません」

作り笑いをしながら先生に頭を下げる。

「先生ー、許してあげなよー」
「そーだよ」
「今日は、たまたま遅刻しちゃっただけなんだよねー?」

まわりのクラスの男子が先生をなだめながらそんな事を言っていた。

……別に言ってくれなくていいのに。

男子の気持ちは嬉しいが私は返って迷惑していた。

だって

女子達の視線が痛いんだもん…。

私は俯きながら女子達と目を合わせないようにしていた。

毎回こうなるんだ…。

「ほら、席に着きなさい」

「へ?」

もっと説教が続くと思っていた私は間抜けな声を発してしまった。

先生は、そうか…と呆れたように言うと大きくため息をつく。

そのため息は何なんですか…。

「今日はこのクラスに転校生が来るんだ。イケメンらしいぞ」

…イケメンってあからさまに強調したよね。

「へー、そうなんですか」

別にイケメンとか興味ないけど。

「興味ないのか?…まぁいい、さっさと席につけー」

先生の言葉に私は逃げるように窓際にある席に向かった。

私が席に着くのを確認すると先生は生徒名簿を手に取りながら廊下の方を見た。

「アルヴァーン入って来い」

ん…?

…聞いたことある名前だ…。



ーガラッ

「「「「キャーーーーーーーッッ!!!!!!」」」」


転校生が教室に入ってくるなり黄色い声をあげる女子達。

やっぱりイケメンだったか…と残念そうに肩を落としている男子達。

そして、

…人生が終わったという顔をしているであろう私。


終わった

私の学校生活…。


原因はもちろん転校生だ。

「エル=アルヴァーンです。仲良くして下さい(ニコッ」

エルだったのか…!!

キラキラと輝く雪のような白髪に深い緑色の瞳、スラッとした細い体にブライトレア学園の白のブレザーがよく似合っている。

深青色のネクタイをリボンのように結んでいる。


バレないようにしなくちゃ…。

私は咄嗟に机に伏せたのにー…

「あっれー?レイラじゃーん」

エルがこっちに手を振ってきたことによってクラスの全員の視線が私に向く。

「なんだ、アイリスと知り合いか」

「まぁ、知り合いみたいなもんです」

「じゃあ席はアイリスの隣なー」

エルは足を進めて歩いてくる。

女子達に笑顔で挨拶をしながら私の横まで来ると白々しい笑顔を向けてきた。

「レイラ昨日ぶりー♪」

「………」

こうなったら無視だ。

私は窓の方を向いてエルの言葉を聞かないようにした。

関わったら絶対に面倒な事になる。

「……ねぇ、レイラ」

私が返事をしないのにイラっときたのかエルは私の顔に自分の顔を近づけて低い声で私の名前を呼ぶ。

「な、何…」

流石に反応しないわけにもいかず小さい声で返事をした。

「…何、俺の事無視してんの?」

「し、してないよ…」

ダメだ…。

首にエルの吐息がかかり昨日の血を吸われた感覚が思い出されてゾクゾクしてきてしまう。

「…嘘つきには」


ーちゅっ…


エルはそう言うと首に顔を近づけてキスをした。

「っ⁈!!!!」

「お仕置きだよ♪」

私の首から顔を上げるとパッと明るい笑顔に戻る。

皆にはキスされたことを気づかれてないみたいだ。


そしてエルが席に着こうとした、

その時ー…

「「「「「キャーーーーーッッ!!!!!」」」」」

廊下の方から女子達の叫び声が聞こえてきた。

…まさか。

「あーぁ、あいつらも来たかー」

エルの反応を見る限り私の予想は当たっていたようだ。


恐る恐る廊下の方を見るとそこには、

制服を着崩すことなくきちんときている黒髪のセレと制服を着崩しているルイがいた。


やっぱりイケメンは何着ても似合うんだなー…

ってじゃなくて!!!!!!


ここから逃げ出す方法を考えよう。



どうやって逃げ出せばー…
「逃げ出すって…ここは学校だよー?(ニコッ」


それがダメなら仮病を使えばー…
「先生…仮病使って早退しようとしてるバカがここにいまーす♪」


…こうなったら最終手段だ。

トイレに行くふりをしてそのまま帰ればー…
「レイラ、馬鹿でしょー(ニコッ」



あぁ、もう…。

「エル、少し黙っててよ!!!!!」


そう言えばエルが少し怯むとでも思った私が馬鹿だった。

ルイといつの間にか教室に入ってきていたセレが私の腰に手を回して逃げないようにされてしまった。


セレがキス出来そうな距離で目を細めて私を見つめる。

「……?」

「そんな顔してると襲いたくなりますね
(ニコッ」

…今なんと?

「セレ…こいつに言うこと違うでしょ」

「あ、そうでした(ニコッ…今日この学校に転校してきたんです」



はい?


「ちなみに僕とルイは2階の2-5のクラスにいますのでよろしくお願いしますね(ニコッ」

「…よろしく」

「僕とは同じクラスだもんねー」

「…だから何?」

「べっつにー?」

私を囲んで会話をしないで欲しい。



もう、

どうにでもなれ…。

こうして私の普通の生活だけでなく普通の学校生活までもが終わったのだ。