「ちょ、ちょっと待って下さい‼︎‼︎」



私は3人から少し距離を置いた場所に移動した。

「どうなさいましたか?」

セレは小首を傾げながら不思議そうな顔をしている。

「血を、吸うって…それにヴァンパイアって言うのも、全部冗談ですよね?」

絶対に信じない。

ヴァンパイアなんてお話の中に出てくるものであって、現実にいるはずがないんだ。

「えーと、残念ながら全部本当です。…あなたが信じてくださらなそうなので、今ここで証明しよう…という話になったのではないですか(ニコッ」

ようは…さっさと血をよこせ、ということですよね?

「簡単に言うとそういうことです(ニコッ」

「……思考の中に入ってこないでください」






「ねぇ…いいから、さっさと血…頂戴よ」



ルイは空腹に耐えられなくなったのか少し苛立ちを見せ始める。

そして私の腕を掴んで自分の方に抱き寄せると首筋に顔をうずめた。


首筋に一瞬チクリと痛みがありー…

ーブツリ……。

何が首筋に刺さるような鈍い音がした。

それがルイの牙だとわかった頃には

「…あっ……ちょ、…やめ」

今まで感じたことのない感覚に襲われていた。

…何、この感覚。

なんか変な気分になってきた…。

足の力が抜け、立っているのがやっとだった。


その場に崩れそうな私の体を腰にまわしたルイの手が支えている。


「…んっ……はぁ…あんたの血、…甘い」


ルイは少しして顔をあげて、笑みを浮かべながらそう言った。

そして、目を細めて口角をあげとろけるような笑顔で私を見つめている。

ードキッ…。


ルイと至近距離で目が合って逸らそうとしても青い瞳から逃れられなくなってしまった。



ルイが何かを言おうと口を開いたその時、

「あのさ…僕にも血、吸わせてよー」

横から声がした。

そして私とルイの間に入ってきたのは不満そうな顔をしたエルだった。


エルはルイから私を強引に奪うと自分の腕の中に入れる。

わ、私…抱きしめられてる⁈

少ししてハッと我に返った私はエルの腕の中で必死にもがいて抵抗したが…

「レイラってば、そんなに暴れないでよー」

エルは更に腕の力を強めてきて私は余計、身動きがとれなくなってしまった。

「……」

色々ありすぎて私は何かを言う気力も抵抗する気力さえ残っていない。


「…ねぇ、やめてほしい?」

急にエルが顔を覗き込んで尋ねてくる。

あと数センチで唇が触れ合ってしまうぐらい顔の距離が近い。


「…やめてほしいです」

恥ずかしくてうつむきながら小さく言う。

私がそう言うと彼は私の耳元に顔を近づけ、

「……俺がやめるわけねーだろ。バーカ」

エルは今まで聞いたことのないぐらい低い声で誰も聞こえないくらい小さくボソッと言うと黒い笑みを向けてきた。

く、黒い…………。

その時私は少し前にセレが言っていたことを思い出した。

『…なにをするんですか、この二重人格(ニコッ』

二重人格ってこういうことだったんだ………。

そんなことを考えているとエルが私の着ていた制服のリボンを解き始めた。

「え、何してるんですか⁈‼︎‼︎‼︎‼︎」

「だって、服きてたら血飲めないでしょー?」

いつの間にかいつものエルに戻っていた。

シュルッと音を立ててリボンをあっという間に解かれてしまう。

それによって鎖骨あたりまでが露わになった。

「…じゃあ、頂きます♪」

その声と同時に、

ーブツリ。

さっきと同じく鈍い音がした。

噛まれたところが熱を帯びてじんじんと熱くなってくる。


「……ぅあ、…エル…だめっ…」

ジュルッという音が耳に届く。

また変な感覚に襲われる。

「…レイラの血、……甘い…それにその顔…わりと、そそる」

口元についた血を拭いながら私を見下ろす。

ダメだ…もう、頭が真っ白になってきた。

ヤバイ、本格的にクラクラしてきた…。





朦朧とした意識の中で


「ルイもエルも、いい加減やめなさい」

はっきりとしたセレの声が聞こえてきたのがわかった。





ー私の意識はそこで途切れた。







「…2人とも、レイラの血を吸いすぎですよ?貧血で気を失ってしまったではないですか…」

セレは2人を見ながらハァ…と深いため息をつく。

「だってー…「だって、ではありません」

そう言いながらレイラの体を抱き上げるとそのまま寝室の方へ向かう。

「…あまり彼女に無理をさせてはいけませんよ?」

「……ご、ごめんなさい」

「わかればいいです。…ルイも分かりましたか?」

少し遠くにいるルイに視線を向けるとルイは小さく頷いた。




「今夜は、もう彼女を寝かせてあげましょう」


セレはレイラの額に軽くキスをすると寝室へと足を進めた。