ー13年前…。

『月が輝く夜に外に出てはいけないよ』

『おばあちゃん、どうして?』

『それはね…ヴァンパイアに襲われてしまうからなの。…だからおばあちゃんとの約束を守ってね』

『うん、わかった‼︎』





私の住んでいる町には古い言い伝えがある。

『満月の夜に外に出るとヴァンパイアに襲われる』という言い伝えが。


でも実際にヴァンパイアに襲われた、なんて事件私は聞いたことがない。

まあ、もし聞いても信じないけど。


私・レイラ=アイリス
ブライトレア学園高等部・1年生
幽霊やヴァンパイアなどは一切信じていません。


だから小さい頃にしたおばあちゃんとの約束を破って学校帰りに夜道を1人で歩いている。

……。

……。

それにしても…。

今日はいつも以上に人の目が痛い。

「私…何かおかしいのかな」

久々に不安になった。


小さい頃から、男女関係なくすれ違う人達が私を見てくる。

初めのうちは心配をしていたけど…もう慣れてしまった。

でも今日のは異常すぎる…。

「…気にしなければいいよね」

そう呟きながら足を進める。



コツコツと私の足音が夜道に響く。




今日は満月のせいかとても明るい。


なんか…、

綺麗な月だな…。



そんなこと考えていて気がつかなかったんだ…。

前から来る男の人達にー…。


ードンッッ‼︎

突然、左肩に強い衝撃があり私は体制を崩してしまった。

「あっ…」

「わっ…‼︎」


ードサッ‼︎‼︎‼︎

私は咄嗟に目をつぶっていたらしい。

視界が真っ暗だった。

恐る恐る目を開けるとー…。

「あの、大丈夫ですか?」

「…ーーーーー?!!!!!!!」

すぐ目の前にモデルのような整った顔があって私は声にならない叫びを上げた。

私の上にその男の人が覆いかぶさるような体制でいる。

えーと…なんでこんなことになっているのかな?

……ダメだ思考が停止してる。


「セレ…何やってんの?」

「さすがセレだねー、夜道で女の子襲うとか♪」

声が聞こえた方を見ると、フードを深く被った2人組みの男が立っていた。

1人は怪訝そうな顔を私達に向けていて、もう1人はお腹に手を当てて愉快そうな顔をして私達を見ている。

月明かりで見えた2人の顔もこの世のものとは思えないほど整っていた。

でもどこか…妖しい雰囲気を漂わせている。



「…膝擦りむいています」

それほど高くない透き通った声が聞こえてきた。


「え…あ、本当だ」

目の前の人が心配そうに指差す方に視線を向けると…。

膝から少し血が流れていた。

そう意識した途端にズキズキと痛み始めた。

「…っ…」


「…痛みますか?」

目の前の人が眉を下げて申し訳なさそうに聞いてくる。

心配してくれる姿も美しい…。
…ってそんなこと今はどうでもいいことでしょ!!!!!!!!!

とにかくこの人に心配をかけてはいけないと思い私は大げさに両手を振る。

「だ、大丈夫です!!!ご心配なく‼︎‼︎‼︎」

「本当ですか…?」

「はい‼︎‼︎」


「「…………」」

お互いしばしの沈黙。




その沈黙を破ったのは男の人の方だった。

「じゃあー…」

そう言って怪我した方の足を持ち上げるとー…

ーペロッ

「…………?!?!?!?!?!」

傷口を舐め始めた。


思わず体が硬直してしまう。

「なななな、何をしてるんですか?‼︎」

「んっ…消毒をしているんですが、何か?(ニコッ」

まるで花が咲くんじゃないかってほどの笑顔を私に向ける。

なるほど消毒してくれてるんですか、納得しましたー…って納得するはずないだろ‼︎‼︎‼︎!‼︎


「あ、あの…「少し我慢していてください」

私の言葉を遮って男の人は私の膝に舌を這わせる。

その度に体がピクリと反応してしまう。

「んっ…ちょっ、と」

なんかイケナイことをしてるように思えてきた。

体が一気に熱を帯びて熱くなってきた。

…頭がクラクラする。

不意に男の人を見ると、軽く微笑んでいるように見えた。


まるで…。


まるで…血を味わっているかのように。



その微笑みを見た瞬間

私の中の何かが弾けた。


ードンッッ‼︎‼︎‼︎

私は思いっきり男の人を突き飛ばしていた。

私はバックを肩に掛け直して立ち上がる。

「ーーーーも、もう大丈夫ですから‼︎し、し、失礼します‼︎‼︎‼︎」

そう言って全力疾走で家に向かった。








「……あの血の味…」








男の人がそう言ったことなんか知るよしもなかった。





「どうしたのー?」


「いえ、なんでもありません」


「だったら早くあのおばさんの孫の家に行こうよ…」


「そうですね」




「確か名前はー…レイラ=アイリスだったっけ?」





「ええ、確かそうだったと思います」

「んじゃー、行くとしますか♪」




男達はそう言うと夜の道を歩いて行った…。