ー…あれはさかのぼること12年前。


私が保育園の年少だったときの話。


『うぇぇん、光くんが美亜のうさぎさんとったーーっ』


私の名前は春日井美亜(かすがい みあ)。


私は何故か、保育園で同じチューリップ組の光君に、毎日のようにいじめられていた。


光君の家は、よくわかんないけど、お父さんが社長さんで、お金もちらしい。


だからか、いつも威張っていて、何かにつけて私にちょっかいをかけてきた。


その日は、美亜の一番お気に入りのうさぎのぬいぐるみを奪われたんだ。


そのうさぎは、お母さんの手作りのぬいぐるみ。


トイレに行くときも、寝るときも、お風呂に入るときも。


肌身離さずいつも持っていた大事な大事なものだったから、私はバカみたいに涙をぼろぼろこぼして、大泣きしていた。


『美亜がおれのおよめさんになったら返してやるよっ』


光君は私の傍に来ると、そう言った。


心なしか頬が赤かった気がする。


『およめさん…?』


しゃくりあげながらも、私は光君を見上げた。


『およめさんって、光君と美亜がけっこんしてふうふになるってこと??』


『か、かんちがいすんなよなっ!?みあはドジだし、バカだし、ブスだから、しょうらい貰い手いないだろうからなっ!けっこんしたらみあをこき使ってやるんだからなっ!お前なんてこれっぽっちも!好きじゃないからな!かんちがいすんなよブス!!』


私はこくこくと勢い良く頷いた。


およめさんでもなんでもいいから、とにかくぬいぐるみを返して欲しくて。


光君はそんな私を見ると、うさぎのぬいぐるみを私の前にずいっと突きだした。

『やっ、やくそくだからなっ破ったらはり千本だからなっ!』


そんなことをぶつぶつ言っている光君に気づかず、私はぬいぐるみが手元に戻ってきたことが嬉しかった。