だが、俺は奴の名前を忘れた。


ただ、奴の名前が嫌いだったから、


あだ名でいつも呼んでいたことしか覚えていない。


自分に呼ぶ権利が無いような名前。


それが奴の名前だった。


『糸』


そのあだ名を呼ぶだけで、俺はいっぱいいっぱいだった。


未だにあの時のことが鮮明に浮かび上がり、


吐きそうになってくる自分が、


こんなにも弱虫だったんだと17歳にもなって気づいた。


だから俺は『糸』のことを『奴』と呼ぶことにする。


それが、今の俺の精一杯なのだから・・・・。