辺り一面柔らかい草で覆われている。両手を草の上について上半身を起こし、周囲を見渡した。

「ここは、いったいどこかしら」

まったく見覚えの無い光景に、夕はただ呆然とした。

「どなたか・・・、いませんか・・・」

夕は植物の間の暗やみに向かって呼びかけた。しかし、なんの反応も無い。

たまに、ポタッ、ポタッと大きな葉から葉へ落ちる水滴がにぶく輝く。

 「あたし、一体どうなっちゃったのかしら」

 夕は自分に何が起きたのか、頭の中で思い起こそうとした。しかし、頭の中はまだボーッとしていて、ちょっと前の自分が思い出せない。

太い植物の茎と茎の間をなんとなく見つめていると、どこからともなくリリリリリーと虫の声のような音が聞こえてきた。

「あ、目覚まし」

それは虫の声とも目覚まし時計のベルの音とも分からないような、奇妙な音だったが、夕の記憶を取り戻すには十分な音色だった。

「そう、今朝、あの目覚ましのベルで…」