「そうよ。…ごめんね、こんな所に来てもらって。」

“来てもらって。”…?


あたし、こんな所に来た覚えはない。


「…どういう事か……、説明して貰えますか?」


あたしが言うと、穂乃さんは、静かに頷いた。

「…翔…___道香ちゃんにとっては、アーテ。その人が、私の婚約者だってことは知ってるよね?」

「はい…。知ってます。」

穂乃さんが、微笑む。
大好きな人を、心から想う…

少女のように。


「真谷 翔。それが彼の本名よ。」


真谷 翔(まだに かける)。
その名前を聞いた時、微かに脳裏に何かが…、浮かんだ気がした。

…気分が悪い。

思い出せない、という感覚にイライラしていた。


「…道香ちゃん。それに何か、心当たりはない?」


まるで、あたしの心を見透かした様に…
柔らかな口調で問う、穂乃さん。



「心当たり……____?」




あたしは、過去の記憶を探った。