いつもは血が床や机に落ちないよう気を配っていたのだが、今日は違った。

何故かその日は血のことを気にしていなかった。

ポタポタと机に落ちる赤い雫に快感すら覚えていたときだ。

ガラッと大きな音をたてて、誰か入ってきたのを俺に知らせた。

『何…してるの?久我くん…』

それはひよりだった。

その時はお互い初めて会ったという感じで、俺は“マズイ”という気持ちも考えなかった。

『一ノ宮…さん?』

その時のひよりの顔は、哀れむとか、引いているとか、そんな表情じゃない。

感情を感じさせない、何も聞いてこない。

『い、いや、別になんにもしてないからね?!』

急いでカッターをペンケースにしまうと、顔の前で手をブンブン振る。

だが、机の上に広がっている鮮血は隠せなくて、ひよりが近づいてきたら一発でバレた。

『血が出てる…!保健室に行かないと!』

いやいやいや。ここで保健室なんか行ったら、養護教諭にカウンセラー室送りにさせられるから。

そのことを考えていたので戸惑っていると、ひよりは笑顔になって言った。

『大丈夫だよ!今日は保健の先生がいないから、傷見られることもないから』

『えっ…』

まさかの気配りな展開に、俺はまた戸惑う。

なんでびっくりして逃げたりしないんだ?まさかコイツもリスカしてんのか?

とかも思ったりした。

でも、俺は何も言わず、ひよりに渡されたハンカチで出血を抑えながら保健室へ向かうことになった。