この坂は、ひよりの手を振り払ってそのあとひよりが轢かれた、という嫌な思い出の坂だった。

「なん…でもない」

俺はまた前を向き、ひよりと一緒に歩き出そうとしたときだ。

「ちょっと待って!久我くん!」

突然後ろから呼び止められたから、俺は坂から転がり落ちそうになった。

「は、はぁ?」

聞いたことのある声に、俺は少し冷や汗をかいている。

嫌な予感はあたり、後ろには長い髪を揺らして悲しそうな顔で俺を見つめる、沖田美香の姿があった。

「沖田…さん」

初めて名前を呼んだ気がする。

すると、沖田は嬉しそうに顔を輝かせた。

「名前、覚えてくれたんだ。嬉しい、な」

ポッと頬を赤く染めて手を後ろで組みながら下を向く沖田。

なんでこのタイミングで出てくる!

俺はチラリとひよりを見た。

やはり不機嫌そうに俺を見上げていた。

「いや、ひより違うんだよ。俺は沖田に気があるワケじゃ…」

「今すぐ返事を聞きたくなって、来ちゃった。久我くんの友達が、家教えてくれたから…」

恥ずかしそうに話す沖田。

俺は「は?!」と聞き返す。

「なんで知ってんの?!俺の友達で家知ってる奴なんて中谷くらいしか…」

中谷の奴めぇ!面白がって教えやがったなクソ野郎!