蜜は甘いとは限らない。【完】




「では、また」

「えぇ」





その後も長々と話し続けた2人はやっと別れた。





「…チッ、あのクソ狸。長々と話しやがって」



時間が無くなっちまうだろうが。





途端、さっきの笑顔は消えて、愚痴ばかりが弧を描いた口から溢れる。


…あんただって話してただろ。





思わずそう言いそうになったけど、喉の辺りで止めた。





「…まだ、あいさつに回るんですか?」

「何を言ってる。
まだちゃんと回ってないだろ」






一通り、この会場にいる全員に声を掛けて回ったあたしたちはお酒で喉を潤わせていた。




はぁ、まだ帰れないのか。

そして、断ることも出来ないのか。





キョロキョロと誰かを探している様子の嵐川さんを見て、ため息をつく。




こんなに落ち着かない会場に、長居はしたくないもの。





「居た。行くぞ」

「…はい」






だけど早く帰りたいあたしと違ってまだまだ用があるらしい嵐川さんがどこかに歩いて行くから、あたしもその後に付いて行く。






「どうも、嵐川さん。久しぶりだなあ」






付いて行った先には、綺麗に整えられた白い髭を生やしたおじ様がいた。






「どうも、お久しぶりです。寺島さん」

「あぁ、本当に久しぶりだ。
会えて嬉しいよ」

「それはそれは。
ありがとうございます」






滅多に自分から頭を下げない嵐川さんが、おじ様に頭を下げた。




…よほど、位が高い方ということなのだろう。



てか、ん?寺島?






「ははっそんなに他人行儀にならなくても、いいんだよ」

「ありがとうございます」