「それではまだ、挨拶が残っておりますので…」

「まぁ、残念ですわ。
もっとお話したかったのに」

「ごめんなさいね」





こんな世界に自分は居るのだと、もう一度自覚させられたあたしは軽くあしらって他の人のところへ行く。




歩くあたしに周りの視線が集まる。


…面倒くさい。




「…来たのか」




きっと、眉間に皺が寄っていただろうあたしに声をかけるのは、今のあたしが一番会いたくない人。




「来ましたよ、もちろん。
今日こそ、ちゃんと断りたいので」




低くも高くもないアルトの声を持ったこの人は、





嵐川 倭(あらしかわやまと)




「まだ、そんなことを言っているのか?
お前にはここを継いでもらうと言っただろう?」

「あたしは了承してませんが」

「そんなものなくとも、お前の体に流れる俺の血が物語っているだろう」

「…。」





…この人は、いつも自分の事ばかり。


今日あたしをここに呼んだのも、この為だけ。




「何も言えないか?」

「…。」





何も、言えない?

違う。言いたくないだけ。



この人に何かを言っても、全て言いくるめられてしまうから。





そしてあたしはそんなこの人の、




「それでも、俺の娘か?」





娘であり、唯一の、跡取りだ。