俺は葵くんから目を離して、葵くんはそんな俺を睨みつけていた。
そうすると自然に静かになった俺たちに、知らない間に落ち着いていた男が口を開く。
「なんで、あんたは落ち着いてんの?
姉貴泣かされたかもしれないのに」
そんな男に意味が分からないという葵くんは、見た目と違ってまだまだ子供だ。
「違う。話、ちゃんと聞くぞ」
「...チッ」
葵くんの肩に手を置いたこの男は俺が思ってるより物事を考えていたらしい。
舌打ちをしながらも静かになった葵くんを見て思う。
「こうなった訳を、教えてくれ」
その様子をじっと見ていた俺に眉を寄せながらも聞いたこの男は、俺が簡単に話すと思っているのだろうか。
「...葵、くんになら話す」
「は?」
もちろん、話す訳がない。
きっと事情を知らないこの男に話すのはダメだろうから、事情を知ってるであろう葵くんに目を向ける。
「...なんで俺の名前知ってる」
だけど、葵くんはさっきの落ち着いた様子と変わって俺のことを目を見開いて見る。
“葵くん”と名前をはっきり言ったのが可笑しいのか?
俺のことを知らないのに、俺が葵くんを知っていたから。
「...俺は舞弥の、高校からのダチだ。
話はある程度聞いてる」
「...ふーん、分かった」

