軽いリップ音を立てて離れた唇に目をやればふっと笑われた。
っくそ、結局余裕がなくなるのはあたしなのね。
鼻の先同士がぶつかり合うほど近い距離で見たこの男の笑顔は、殺人級に綺麗なものだった。
…当然、それを見たあたしの顔は熱くなっていく。
「舞弥、返事は?」
その笑顔で顔が赤くなっているのが分かっている寺島は笑顔を絶やさずに聞く。
あぁ、悔しい。
あたしの言葉には返事しなかったくせに、自分が有利になった途端に聞くのか。
……でも。
「…はい」
それに素直に従ってしまうあたしは、前とは見て分かるほどに変わった。
「ふはっやっぱりこっちの方が俺の性にあってるな。
言われる側なんて、むず痒くてやってられるか」
「…さっきまで赤くなってたくせに。死ね寺島」
「違うだろ」
「は?」
「名前。俺の下の名前、知ってるだろ?」
「、」

