「どうか、しましたか?」

「......いや、何もない」




ふん、と踵を返すその広く大きな背中はいつもと違って小さく弱々しく見えた。



何も無いって、お見合いをさせたのもあの人を選んだのも自分のくせに。
なんであたしが睨まれなきゃいけないのよ。



吐き出す空気を頬に溜めて、一気に外に出せば可笑しな音がした。



「...帰ろう、かな」



すぐ側に止まっているタクシーに乗り込み、道順を言っていく。

だって、住所を教えられていないから。



こんなだったら、聞いておけばよかった。

なら、こんな手間。
しないで済むことなのに。



だんだんと見えてきた自分の新しい大きすぎる家は、微かな明かりに灯されていた。

最近は、さらに日が落ちるのが早くなったなあ...。


それと同時に冷え込んでいく空気を思い出し、車から降りたくないような気持ちになる。


や、降りないといけないのだけれど。



だんだんとスピードを落としていくタクシーに、溜め息を吐く。

一体、今日何度目の溜め息なのだろうか。