蜜は甘いとは限らない。【完】





見つけた。




少し遠いけど、奥の方に見えた里愛さんの背中に叫ぼうとしたあたし。



だけど。




「んー!!!」




“里愛さん”、そう呼び終わるまでに後ろから口を塞がれる。


なにかの小説出てくるみたく、クロロホルムをかけた布でなくて、ただの手袋を付けた手で強く口を塞がれた。



力が強いからか、必死に息を吸おうとしても吸えなくて、だんだん苦しくなってきた。


苦しさから開放されたいあたしは力一杯抵抗するけど、その度にどんどん店と店の間にある細い通路に入っていく。


そんなあたしを見ている人は、助けてはくれない。




「少しの間、静かにしていてください」

「!!」




思い切って少し開く口で手を噛んでやろうかと試みれば、それに気が付いたかのように耳元で囁かれる。


……この声は。



聞き慣れた声に、抵抗をやめる。

抵抗を止めたあたしに安心したのか、手を離してくれた。




「……わざわざそんなことまでして、なんの用?」