大っ嫌いにさよならを


 やっぱりこういう映画は苦手だ。少し上を見上げて目を扇ぐ俺に、

「相変わらず涙もろいんだ?小学校の授業で観たドキュメンタリーでも泣いてたじゃない」

と、椅子から立ち上がった茉莉奈が俺の額を人差し指でつついた。

 涙もろいんじゃない。感受性が人より少し強いだけだ。

 それに、野生動物たちの弱肉強食という厳しい環境で、まだ小さな子が親と離れて天敵に食われ命を落としてしまうのを、平気な顔して観てられる小学生の方が可笑しいだろうに。

「ほら、早く行こう!次はお買い物!」

 しかめっ面になっていた俺の手をとって引っ張り、出口へとずんずん進む。

 思わずため息をもらして、つつかれた額を空いた手でさすりながら前を行く背中を見つめる。

 俺は知ってるんだ。おそらく、俺だけだ。多目的教室に置かれた古いブラウン管のテレビで観たドキュメンタリーに、茉莉奈はこっそり涙を流していた。

 ほんとは誰よりも感受性が強いのだ。茉莉奈の性格上、それを見せびらかしたりはしないけど。

 俺は一度、掴まれていた茉莉奈の手を離し、横に並んで繋ぎ直した。

「こっちの方が良い」

 茉莉奈は「そう?」と言っただけだったが、その耳はほんのり赤かった。