大っ嫌いにさよならを


 ショックで打ちひしがれる俺の手に茉莉奈の手が重なった。

「私にとっては助かるの、翔の鼻は素直だから。ついでに口もそうなってくれたら嬉しいんだけど?」

 冗談っぽく言う茉莉奈。周りではせかせかと席に着いていく客たちでいっぱいだ。

 すると、照明が落とされていき、辺りが薄暗くなる。もうすぐ映画の上映が始まるみたいだ。

 俺は重ねられた茉莉奈の手を握った。

「もうガキじゃないからな、思ってもないことは言わない。俺がどれだけお前のこと好きか、これからちゃんと伝えるから」

 あの時の後悔は、もうしないように。

 俺はやっとこの手を握りしめることができた。離れていた時間は、今の、この瞬間のためだと思う。

 だから、もう後ろを向いて悔しさに囚われたくはない。

 いつからか自分を誤魔化す嘘が垢のように、体の一部のように住み着いていた。洗い流す術もなく、普通に過ごしていると全くその存在に気づかない。

 けど、俺はそれとほんの少しだけ別れられた気がする。茉莉奈のまっすぐさが、俺をそうさせたのだろう。

 大きなスクリーンいっぱいに青い景色が広がった。映画が始まったのだ。

 流れてきた優しい音楽にまじって隣から聞こえたのは、恥ずかしそうな、けれど嬉しそうな「ありがと」の言葉だった。