大っ嫌いにさよならを


 そして、ばつが悪そうに、

「あ、やっぱり嫌だった…?翔ってSF系が好きだったもんね」

と、言ってこちらを上目遣いで見上げた。

 俺の好みを覚えててくれたのか…!

 その事だけで俺は舞い上がる。俺が犬なら、尻尾をだらしないぐらいに振り乱していただろうな。

「べつに…仕方ねぇよ。彼女のわがままを聞くのが、彼氏の役目なんだろ」

 舞い上がる気持ちを隠すように、わざと不機嫌に答えた俺に茉莉奈が笑った。「なにが可笑しいんだ」と俺が聞くと、茉莉奈は少し考えこむ素振りをしてから言った。

「…ずっと黙ってたんだけど、翔って嬉しい時必ず鼻がピクピクするんだよね」

 俺は反射的に鼻を手で覆い隠していた。

 体温が上昇していく。館内の温度調整がなってないんじゃないか?喉の渇きを癒すため、Lサイズのジュースにおもむろに手を伸ばす。

「覚えてる?小学生の時、私がバレンタインのチョコをあげたでしょ。翔、無愛想に受け取ったのに鼻がピクピクしてたんだから、ほんと可笑しかったなぁ!」

 ついに汗が額を流れていた。俺はそんなこと今の今まで気づかなかった。驚きと羞恥で、いっきにLサイズのジュースを半分も飲んでしまった。

 それじゃあ、犬の尻尾みたいに感情が筒抜けになってたって事か!なんてまぬけな!