大っ嫌いにさよならを


 広い館内、スクリーンに映し出される予告編のその前を通る客や、始まる前からポップコーンを貪る客。隣で熱心にパンフレットを眺める彼女。

 けっきょく、こうなるんだよ。

 俺は茉莉奈に「お願い」されるとめっぽう弱くなるらしい。困ったもんだ。

 茉莉奈の持つ『空に届ける歌声』のパンフレットを覗き見てみる。

 奇跡の歌声を持つ少女と一匹の子犬。その一人と一匹の成長を描いた物語であり、出会いと別れのドラマチックさや芸能界という煌びやかな世界観が、この作品の売りのようだ。

 俺は特別映画にこだわりがあるほど興味はない。けど、観るのならSFや戦記物が好きだったりする。

 ありきたりに犬と子供を使えば、客の感動をひきつけるとでも思っている類の映画は苦手だ。

 わりと家族層が高い客の様子を眺めて一人、心の内でぼやいてみる。

 すると「楽しみだね」と、茉莉奈がまだパンフレットを眺めて嬉しそうに笑っていた。

 その茉莉奈の笑顔を見て、どんな映画だろうとこいつと一緒に観られるだけでいいや、と思えた。

 俺がそうして茉莉奈の横顔を見つめていれば、その視線に気づいた茉莉奈が顔を上げて首を傾げた。