大っ嫌いにさよならを


 思いもよらない事態(喧嘩)によって離れたかと思えば、今やすぐ側にあいつは居て、俺に笑いかける。

 それがまた日常となり、特別でもある事を考えるとどうしようもなく胸が躍る。

 …の、だが。



「私、これが観たいの」

「やだ」

 張り出されている映画のポスターを指差して俺に笑いかける茉莉奈に、俺は思いっきり顔をしかめさせる。

「なんでよ!?初めてのデートで彼女の意見を無視するなんて男の恥よっ!」

 そう、今日は俺と茉莉奈の初めてのデート。どうしても観たい映画があるのだとせっつかれて来たは良いが、

「この『空に届ける歌声』を観るために来たんだから」

よりにもよって、俺の苦手な映画を観ようだと!?

 茉莉奈は鞄からパンフレットを出して、俺の目前に突きつけた。

 子犬と少女が向き合って笑いあう、その向こうに淡い空が広がる。その絵からストーリーを考えずとも分かるのは、感動物語だということだ。

 わざとか!?わざとなのか!?それとも本当にこんな映画が観たいと、純粋に思って言っているのか!?

「ねぇ、翔…いいでしょ?私、翔とこれが観たい」