俺はブランコから降りて、自分で拭っても拭いきれない涙を流す茉莉奈の前にしゃがんだ。

「泣くなよ…茉莉奈」

 茉莉奈の頬を両手で包み込んで、流れ落ちる涙を拭う。その手が情けないほどに震えていた。


 ―…好きだった。


 その言葉は俺に充分すぎるほど胸に、重く突き刺さった。

 今までに、こんな想いを感じたことはなかった。

 早鐘を打つ鼓動がこんなに苦しいなんて、愛おしいなんて、怖いなんて…俺は知らなかった。

 ほら、まただ。俺は茉莉奈の側にいると戻れない道をつくってしまう。

 何かを知ってしまった時、知らなかった時には戻れないし、戻せない。

「かけるっ…好き」

 俺は、茉莉奈の口を塞ぐように唇を押し付けていた。ほとんど衝動に任せていたと思う。

 これ以上、茉莉奈の声を聞いていると俺は本当に可笑しくなってしまう。冷静じゃいられなくなる。

 今になってどうして俺の前に現れたのかとか、どうしてそんなに必死になるんだとか、聞きたい事はいっぱいあるのに。

 俺の背中に回された茉莉奈の手が、俺の心を掻き乱すんだ。



* 離れていた距離にさよなら *