「おかえり、翔」
にこにこと気持ち悪いくらいに笑顔の茉莉奈に、えもいわれぬ寒気を感じた。
昨日ので諦めたと思っていたのに…なんなのだ、この異常な執着心は?
鉄之助や将が言っていた、俺の言葉に傷ついて泣きじゃくった繊細な女子とはとてもじゃないが信じられん。
「おかえり、じゃないって!もう、俺の所に来るなって言っただろ。こんなのストーカーのする事だぞ」
母さんがいることも忘れて茉莉奈の腕を掴んで怒鳴ると、案の定…
「なんて事を言うの!?茉莉奈ちゃんがせっかく遊びに来てくれたのよ?それをストーカーだなんて、思い上がるのも甚だしいわ」
と、俺を叱る母さん。おいおい…ちょっと待ってくれ。この場合、俺が悪者になるのかよ。
「違うって!こいつは…」
「お母さん、良いんですよ。多分、恥ずかしがってるんです。照れ屋さんだから」
茉莉奈がそう言って笑うと母さんも「ごめんなさいね」と俺にはめったに見せない優しい笑顔を浮かべた。
この不利的状況を、俺が何とかする術はないようだ。
俺は頭を抱えて後退り、力なく椅子に座り込んだ。向かいに座るあいつはそんな俺に、母さんが見ていないところで口角を上げて笑った。



