「いやー。来たはいいけど兄貴はいないし、萌サンはナンパされてるし、どうしようと思いましたよ」
あはは、と明るく優くんは笑う。
あたしもつられてへらりと笑った。
「あ、そういえば萌サン、兄貴はどこですか?
せっかく陸真サンに言われて来たのに、兄貴がいないんじゃ意味ないじゃん……せっかく内緒で来たのに」
ぶー、と拗ねたように優くんは唇を尖らせる。
あ……霧谷くんもこんな顔するのかな。
不覚にも少しどきりとしてしまった。
「……と言うか、優くん、内緒で来たの?」
「はい。言ったら兄貴逃げそうですし」
「た、確かに……」
朝も霧谷くんは衣装を着るのにかなり嫌がってた。
「霧谷くん、朝は会ったんだけど峰くんに連れられてまだ帰ってきてないの」
「マジすか」
「うん。まじなんです」
はぁ…と二人でため息をもらす。
「兄貴がいないんじゃなぁ…これからどうしよ」
困ったように頭を掻く優くん。
「ま、兄貴はいなかったけど萌サンには会えたし、いいモノも見られたし……
萌サンの邪魔しないようにそこらへん見学してから帰りますね」
「そっか……じゃあまたね」
もっと話していたかったけど……仕方ないよね。
見上げてお別れの挨拶をしていたとき、がしっと優くんの肩に手が置かれた。
「あんた……何萌のこと襲おうとしてるのよ」
この声……
優くんの後ろを覗くと怖い顔をしたゆっちゃんが立っていた。
「萌に何かしたらあたしが許さないわよ!」
「はっ!?いや、ボク萌サンのこと襲おうとかじゃなくてですね?」
「問答無用!」
「は?」
カシャンとゆっちゃんは優くんの手首に手錠をかけた。
「なんですか、これ?」
「手錠」
「いや、ボク何もしてないんですけど」
「現行犯逮捕よ」
「いや、だからボクは……」


