「何?おにーさんたちこの子ナンパしてんの?
残念だけど、もうこの子彼氏いるからやめてくんない?」
ぽかんと見上げているお客さんを無視して、あたしは手を引かれて隅っこの方へ行った。
ちょうど入口のところ、みんなが出入りするところ。
みんな忙しいからか、あたしとその人には気づかなかった。
「あ、の…ありがとうございました」
とりあえずお礼を言わないと。
ぺこりと頭を下げる。
見ず知らずの人に助けられるなんて……情けないよぉ……
「本当に、何してるんですか!知らない人に名前教えちゃダメですよ!」
「う……、ごめんなさい」
「ボクが来たからいいものを……もし兄貴が来てたらどうしたんですか。萌サンに何するか……いや、むしろ萌サンをナンパした人がどうなっていたか……」
「ごめんなさ……ん?」
あれ?この声……
そーっと顔を上げるけど帽子のせいでよく見えない。
でも少し見えるその顔は見たことがあるような、ないような……
じーっと顔を見ているとぱちりと目があった。
「あ、そっか。前会ったときは女の子の格好してたからすぐには分からないか」
くくっ、とその人は綺麗な顔を綻ばせる。
この声……
この笑い方……
女の子の格好……
さっきのあたしの呼び方……
…………!!!
「もしかして、優くん!?」
「ども。お久しぶりですね、萌サン」
帽子を取ってにこりと笑顔を浮かべた顔は霧谷くんによく似ていた。
「ど、どうして優くんが……?」
「誘われたんですよ。陸真サンに」
「峰くんに?」
「はい。兄貴のおもしろい姿見られるかもって」
「そうなんだ…」
そういえば霧谷くんと峰くんは幼馴染みなんだよね?
優くんと峰くんも知り合いなのかな。


