驚いて霧谷くんを見上げると、すぐ近くにレンズ越しに霧谷くんの綺麗な瞳があった。
そして一瞬、唇に柔らかな温もりを感じた。
「あ、ぅ………」
キスされたと理解するとカアァ、と顔が熱くなる。
いつまでたっても慣れないよ……
「萌はズルイね」
「えっ!?」
「そんなこと言われたら怒れないじゃん」
霧谷くんは困ったような笑みを浮かべてあたしの顔を覗きこむ。
綺麗な瞳があたしを捉えていて、体の熱が上がるような感覚がした。
「き、霧谷くんの方がズルイもん……不意討ちなんて」
さっきからあたしの心臓はドキドキして仕方がないのに……
「ズルイ僕は嫌ですか?」
ゆるり、と楽しそうに霧谷くんは口元を上げる。
「……嫌じゃないです」
そう答えると霧谷くんはまた嬉しそうに笑った。
やっぱり霧谷くんはズルイよ。
あたしの答えなんて分かってるくせに……
むっ、としながら霧谷くんを見る。
「家着きましたよ」
「え」
いつの間に……
一緒に帰れるのは嬉しいけど、こうやってバイバイするときはいつも、もっと二人でいたいなぁ、って思ってしまう。
「じゃあ、また明日」
するりと離れた手の温もりを寂しく思ってしまう。
でも明日も会えるし……我慢我慢。
「また明日ね」
笑顔を作って霧谷くんに手を振る。
背を向けて霧谷くんはもときた道を歩いて行く。
バイバイするのは寂しいから好きではないけど、こうやって後ろ姿を見るのは好きだなぁ。
風で霧谷くんの黒い髪がさらさらと揺れる。
あぁ……やっぱり、好き。大好きだな……
一人笑みを浮かべながらあたしは家に入った。
それを霧谷くんがケータイを使って見ていたなんて、あたしは全く気づかなかった。


