あたしが自分から動かないことを理解したのか、霧谷くんはあたしをくるんと回した。


うっ……お陰で霧谷くんがあたしの前に!!


絶対に顔、あげられないよ……



「萌……怒ってるよな。ごめん」


「え?」



霧谷くんからの言葉に驚いて、あたしはさっきまでの恥ずかしさを忘れて顔をあげた。


霧谷くんは眼鏡を外していて、いつもは隠れている綺麗な目に悲しみを浮かべてあたしを見ていた。



「今まで、嘘ついてたんだ。当たり前だよな……」



う、嘘?え?



「霧谷くん…何の話をしてるの?」



そう言うと霧谷くんは困惑したような顔をする。



「何のって……今まで俺のこの性格隠してたから。それで怒ってたんじゃないのか?」



わぁ…霧谷くんが俺って似合うなぁ……じゃない。



「別に怒ってないよ?」


「でも、」


「霧谷くんは霧谷くんでしょう?」



そう、霧谷くんは霧谷くん。



「一人称が僕でも俺でも、敬語でもタメ口でも、霧谷くんは霧谷くんでしょう?
いつも優しくて、あったかくて……」



あたしの、大好きな人。



「だから怒ってないよ」


「……じゃあ、なんでこっち見なかったの?」


「それは………」



さっきのキスシーンを思い出してあたしの顔は赤くなる。



「えーっと………」



恥ずかしかったからです、とは言えない。


ど、どうしよう……



「言わないとキスするよ」


「うっ……」



なんか霧谷くんが意地悪な顔してる気がする!



「さっきのが……恥ずかしかった、です…」



言えないと思いながらも話してしまったあたし……



「それだけ?」


「うぅ……」



霧谷くんはエスパーですか?


なんで分かるんだろう…


でも、これを言うのはかなり恥ずかしい。


だって、自分でもこんなこと思うなんて考えられなかったんだもん。