「名前、呼んで?」
「………っ」
耳元で囁かれた霧谷くんの声に大袈裟なぐらい肩が揺れる。
霧谷くんがあたしから離れた気配がしたので、あたしはそっと目を開けた。
どこか楽しげに口元を弛める霧谷くんがあたしを見ている。
「き、霧谷くん……」
「もう一度」
「霧谷、くん……」
まるで魔法にかけられたように、あたしは霧谷くんの名前を呼ぶ。
……なんか、さっきと同じだ。
好きすぎて、もう、"好き"の置き場がない。
どんどん溢れて、止まらない。
「霧谷くん…」
全部、全部
「霧谷、流…くん」
心も、体も……
「流くん…」
流くんで、いっぱいだ。
「……好き」
もう、抑えられない。
「霧谷くんが、好きです。大好きです」
恥ずかしい。恥ずかしいけど、もう止められなかった。
あたしは、霧谷くんが大好きだ。
バクバクする自分の心臓の音を聞きながら、あたしは霧谷くんを見つめる。
「はい。よくできました」
にこり、と口を弛めて霧谷くんはゆっくりと眼鏡を外した。
「え………」
ドクン、とあたしの心臓が大きく跳ねた。
一瞬、本当に霧谷くんなのかと疑ってしまうぐらい、眼鏡を外した霧谷くんは綺麗な顔をしていて、あたしはその顔を凝視してしまう。
霧谷くんの目……綺麗、だな……
霧谷くんの真っ黒な澄んだ瞳に吸い込まれそうになる。
ぼーっとして見つめるあたしに霧谷くんは妖艶に微笑んだ。
「ご褒美です」
「えっ……んっ………」
そう言って、霧谷くんはあたしの唇を塞いだ。


