「萌ちゃんは流のこと名前では呼ばないのね」
「あ、そう、ですね……」
前にゆっちゃんにも言われたっけ。
彼氏彼女なら名前で呼びあったら?みたいなこと。
うぅ…呼びたい気持ちはあるけど……
「ずっと"霧谷くん"って呼んでたから、つい……」
それに、恥ずかしい、し……
そんな気持ちを誤魔化すようにあたしは顔を野菜に向ける。
「んー、でもこの家の人はみんな"霧谷"なのよ?
これをきっかけに"流"って呼ぶようにしたらどうかしら」
「う、でも……」
やっぱり恥ずかしいよぉ……
「もうっ、そんなこと言って!
流だって心の中じゃあ萌ちゃんに名前で呼ばれたいって思ってるんだからっ」
「そ、そうなんですか……?」
当たり前じゃない、と言う優子さん。
そう、だったのかな……?
霧谷くんも名前で呼んでほしいって思ってたのかな。
でも、あたしだって"桃園さん"って呼ばれてたときよりも"萌"って呼ばれる今の方が嬉しい。
その気持ちは、霧谷くんも同じだった……?
「流が帰ってくるまでにまだ時間あるし、名前を呼ぶ練習でもする?」
あたしは野菜を洗う手を止めて、優子さんに向き合った。
「よ、よろしくお願いします……」
――――――――――――――――――
――――
がチャリという玄関の音と霧谷くんの声。
うわぁ……緊張しちゃう。
「ほら、萌ちゃん行ってあげて」
「こ、ここでもいいんじゃ……」
「駄目よ!」
行きなさい!と優子さんに背中を押されてあたしは霧谷くんのいる玄関に向かった。
こちらに背中を向けて靴を脱いでいる霧谷くん。
うぅ……お、落ち着いて、落ち着いて。
あたしだって……霧谷くんの名前、呼びたいんだから。


