「霧谷くん……?」
どうしたの、と声をかけるけど、霧谷くんはあたしを見つめるだけ。
静かな空間に、あたしの心臓の音がやけに大きく聞こえた。
「はぁ……家に行ったら萌とは離れちゃうから、ちょっと名残惜しいな」
「へ?」
ふっと笑みを溢した霧谷くんを、あたしはきょとんと見つめる。
だって、一緒の家にいたら離れるとは逆じゃないの?
そんなあたしの疑問に気づいたのか、霧谷くんはくすりと笑ってあたしに近づいてくる。
「だってさ、萌」
そっと繋がれていた手が解かれて、あたしの頬に触れる。
それだけであたしの頬は赤くなる。
「き、霧谷く………」
「萌とこういうこともできないでしょ?」
「へっ?…んっ……」
ゆっくりと重なった唇。
冬のせいか一瞬冷たかった霧谷くんの唇は、お互いの熱ですぐに熱くなった。
触れるだけ、啄むように何度も繰り返される。
「……充電完了」
離れた唇を合図に目を開ければ、満足そうに笑っている霧谷くんの笑顔があった。
うぅ………
「い、いじわる……」
「萌だけだよ」
再び繋がれた手に引かれて、あたしは霧谷くんの家に向かった。
ただいま、と言う霧谷くんの後ろから小さくお邪魔します、と言って中に入る。
「あ、いらっしゃい萌ちゃん」
「あ、おはようございます、優子さん」
パタパタとスリッパの音を立ててこちらにくる優子さんに笑顔を見せる。
「うふふ、おはよう。さぁ、私と一緒に準備しましょう。
あ、流は萌ちゃんの荷物部屋に置いてきてね」
「え?あの……」
優子さんは霧谷くんの返事も聞かずに、あたしの手を引っ張っていってしまう。
振り返ったときの霧谷くんの顔は、少しだけ不機嫌そうに見えた。


