「だからって人の彼女に勝手に抱きつくな」
ぐっと引かれたかと思えば、あたしは霧谷くんにぎゅっと抱きしめられていた。
って、今………
「あら、いいじゃない」
「よくない」
「嫌だわ嫉妬?心の狭い男ねぇ。
そう思わない、萌ちゃん」
「へっ!?あ、えと……」
あたしの頭には二人の会話なんて届いていなくて。
たださっきの霧谷くんの言葉に、じわじわと頬が熱くなっていく。
き、霧谷くんが彼女って…あたしのこと彼女って言ってくれたぁ。
ど、どうしよう……すごく嬉しい。
しかもお母さんの前で……
「あらあら真っ赤。かわいいわね」
「俺が好きになったやつだし、当たり前でしょ」
「のろけ?若いわね」
くすくすという楽しそうな声にまたまたはっとする。
そ、そうだっ、自己紹介しなきゃ!!
「あっ、あの!」
こちらを見た霧谷くんそっくりの目に、緊張で心臓が痛くなる。
「あ、あたしっ、霧谷くんとおっおつ、お付き合いをさせてもらってますっ!
桃園 萌です!!」
ガバッと頭を下げる。
「き、霧谷くんにはいつもお世話になっているというか、あっ!遅くなりましたけどお邪魔してます!」
再び下げたあたしの頭の上から、小さくくすっ、と声が聞こえた。
「ご丁寧にどうも、萌ちゃん。
私は流の母親で優子(ユウコ)って言います。よろしくね」
「はっ、はい、よろしくお願いします!!」
優しく笑う優子さんに、あたしもつられて顔に笑みを浮かべる。
うわぁ……笑うと更に綺麗な人だなぁ。
やっぱり親子なだけあって霧谷くんと優くんに似てる。


