あたしがゆっちゃんと買い物に行ったあの日、お店で買ったのはシンプルな腕時計。
黒の革のベルトに銀の文字盤。
一目見て霧谷くんに似合いそうだと思った。
「その、霧谷くんが何を欲しいとか分からなくて、ただ……霧谷くんっぽいなぁって思って。
それに時計なら実用的だし、いつも着けていられるなぁって、それで……」
その続きは霧谷くんの唇に塞がれて言えなかった。
「…んっ……」
長くて、甘いキス。
そっと離れていく温もりに目を開けると、優しく笑う霧谷くんがそこにいた。
「ありがと。大事にする」
霧谷くんが喜んでくれたのが嬉しくて、あたしも自然と頬が緩んだ。
さっそく着けている霧谷くんはすごく嬉しそう。
あたしもふわふわした気持ちのままそれを見ていた。
「あ、忘れてた」
再び鞄の中を見るあたしに、霧谷くんは不思議そうな顔になる。
「どうしたの?」
「うん、えっとね……」
確かここに入れたはず……
「あった」
ゆっちゃんから渡された封筒。
中身が気になるところだけど、ゆっちゃんにも釘を刺されたし……ここは我慢!
いざとなればあとから霧谷くんに見せてもらおうかな。
「何、それ?」
「あたしにもよく分からないけど、ゆっちゃんが霧谷くんにって」
「相田が?」
「うん。誕生日プレゼントって言ってたよ?」
訝しげな顔で白い封筒を開ける霧谷くん。
何が書いてあるんだろう……
しばらくして霧谷くんは、少し苦笑しながら顔をあげた。
「?」
「あいつ……」
「???」
あれ、なんか楽しそう?
くすくすと一人笑う霧谷くんに、あたしの頭には"?"が浮かぶ。
「相田からの誕生日プレゼント、知りたい?」
霧谷くんがこんなに嬉しそうなんて……ゆっちゃん、何をあげたんだろう……
気になる。


