こ、これって……
「き、霧谷くん……あの、その…これ……」
「どうしたの?」
「う、ぇと……」
カアァと熱くなる頬。
「いらないの?」
あくまでも霧谷くんは普通の声であたしに聞いてくる。
……もしかして、気づいてないのかな。
それならあたしが意識することでもないよね。
ちょっと残念だけど……
「……じゃあ、い、いただきます」
おずおずと口を開けるとほろ苦いコーヒーの味がいっぱいに広がった。
「おいしい?」
「う、うん」
あたしが頷くと霧谷くんは少し意地悪そうな顔で笑った。
こ、この顔は……
すっと霧谷くんの綺麗な手があたしに伸ばされる。
そのまま唇をなぞるように滑らされる指に顔が熱くなった。
「間接キス、だね」
くすり、と妖しく微笑む霧谷くんに脳がくらりと揺れた気がした。
ととと、というか……
「き、霧谷くん…気づいて……」
あわあわ、とするあたしを見て霧谷くんはさらに笑みを濃くする。
「慌ててる萌がかわいくて」
ごめんね、と言うと同時に霧谷くんの顔が近づいてきて、ちゅっと小さなリップ音をたてて離れた。
い、今、何が……
霧谷くんを見るとケーキを美味しそうに食べている。
でも、唇には感触が、温もりが残っていて……
霧谷くんのごちそうさまという声で、あたしはわれに返った。
二人でお昼ご飯とケーキの後片付けをして、今は霧谷くんのお部屋でくつろぎ中。
霧谷くんの後片付けの手際がよくて、お手伝いしてるの?と聞いたら後片付けだけね、と苦笑しながら言われた。
霧谷くん曰く、料理はお母さんがするけど、後片付けは霧谷くんか優くんみたい。


