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 いつものジャケ撮り。
 煌びやかなドレスを着て容姿端麗な男の子を従えて撮影。
 当初はそんなお姫様みたいな待遇に感激したものだが、いつの間にやら『感動』や『舞い上がった気持ち』なんて忘れてしまった。





 どこかにそんな気持ちを置いてきてしまったまま、表情なんて決めのポーズひとつひとつ一瞬だけに込めてる。最近、笑顔のジャケなんてあったかな。いやいや、そんなこと考える必要なんてない。





 ただ単に楽曲にあった一枚をカメラに残せればそれでいい。




 全ては曲と歌のために。
 


 今日も同じような1日を過ごすはずだった。
 私のところへ挨拶へ来たのは今時の容姿端麗な男の子。と言っても、私より年下なだけで27歳というのだから、男の子なんて言ったら失礼かもしれないな。





「君島有正です! よろしくお願いします!」




「どうぞよろしく」

 楽屋では短めの挨拶しかしてない。
 なんとなくスレてない感じが好印象でこういう相手ならば余計に仲良くならないほうが、初々しく今回の楽曲の『片想い』というテーマには合うかもしれなかった。





 不安そうな彼の視線を背中に受けて少し可哀想だな、とは思ったものの冷たい態度でコンセプトに合った表情を作り出した。
 





 撮影が始まるとカメラマンの掛け声とともに姿勢を変える度にシャッター音が響いた。眩いフラッシュに隣の男の子はまだ緊張しているようだった。





 それでいいよ、キミ。

 彼の視線や仕草がなんとなく私を追っているのがわかる。





 いいじゃん、いいじゃん。

 “切ない”みたいなその表情も。