「女なんて金ヅルだろ」

 目の前の男は両脇に女を侍《はべ》らせて得意げに話す。
 ここは銀座の高級キャバクラだ。上質の赤いソファに腰掛けて優雅に足を組むこの男が俺と自然に話しているということが未だに信じられない。




「また颯《ハヤテ》さん、そういうこと言って」

「有正《アリセイ》、綺麗ごとばっか言ってっと、どんどん若い奴らに置いていかれるぞ」




 綺麗事か。
 利用できるもんは利用する。実際に彼はそうしてきたのだろう。




 利用するといったって。事務所や大御所に媚びへつらったりするのは自分に実力がない、と言っているような気がしたし、自分のことをイイと言ってくれるファンの女の子たちに貢がせるのは少しだけ気が咎めるのだ。




「でも……」

 そんな俺の葛藤を知ってか知らずか先輩俳優の颯さんは俺の言葉を一蹴する。




「利用するもんはな、利用しないと埋もれてくんだよ、この世界は」





 そう言って颯さんはワイングラスの血みたいな液体を喉に流し込んだ。
 酔っていても言うことはカッコイイ。
 流石というかなんというか。……褒めるとこ違うか。




「どんなに頑張ってもダメっすかね?」

「頑張るだけなら誰にだってできんだよ。チャンスをモノにできんのは飢えた目でギラギラしてる奴だけ。必死で這い上がろうとしてないやつは蹴落とされる。現にお前、最近、仕事減ってんじゃねぇの」





 颯さんの言葉は胸の奥にズシン、とくる。颯さんは子役の頃から活躍している俳優で、子役でブレイクした後、再ブレイクを果たした俳優なので言葉には重みがあった。