伶くんはいつもどおりだ。いや、当たり前か。何、意識してんだ、私! しっかりしろ!
「ああ、また痕ついてるし」
「ん?」
「メガネのあと!」
めんどくさそうにメイク道具を取り出す伶くんは鼻のところを人差し指で示して「撮影の前にメガネはしないでくださいね?」と言った。
「あ! ああ! ご、ごめん」
痕が残っているとコンシーラーで隠さなきゃいけなくなるから、余計な時間をとらせてしまう。
「夢羽! プロ意識にかけるわよ」
「だから、ごめんて」
私を怒るのは勿論、マネージャーだ。
小言はいつも。マネージャーの言うことはいつも正しい。だけど、彼女の言うことを聞いていると少し疲れた。
手際よくメイクを完成して衣装を着る。
これまた派手な。豪華な造りにこだわるのは私や制作するスタッフの楽曲や歌詞の想いが込められている。
歌のイメージに合わせて何時間も撮り直すのは当たり前だ。真っ赤なドレスにアクセントの黒がところどころに散りばめられていて。アップにした髪と赤い唇。
これってさっきの私とは……「俺、天才ですね! 今日も夢羽さん、完璧」……全然違うけど、認めるのはなんか癪だ。ブスっとして廊下を突き進むと後ろをついてくるカオリンと伶くんがコソコソと「今日は夢羽さん、機嫌悪いね」なんて話してる。
聞こえる音量で話すな、馬鹿。
そして目の前を歩いているのにそういうこと言うな、馬鹿。
そしてそしてこんな気分にさせたのは誰のせいだよ、伶くん。

