呆然として私を見る彼。

 俯いて走って乱れた前髪を直すフリをして涙を隠した。




「……カッコ悪ッ……なんで君島くんにこんなこと言ってんだろう」




 目の前にいた彼が突如、私を引き寄せた。抱き寄せられて彼の胸に自然と顔をうずめる格好になる。




「ココ、テレビの前じゃないですよ」

「え?」

「事務所の社長もマネも誰もいません。カッコつけなきゃいけない相手なんていないんですよ」






 頭の上に降ってくる低い声が心地いい。

 優しい声に私の気持ちも少しだけ落ち着いてきた。





「……君島くんがいるじゃん」

「俺はいいんです」




 なんだか矛盾した答えに笑えてくる。

「……なんで……ハハ」

 君島くんは私の頭を子供の頭を撫でるようにずっと撫でてくれている。だけど、冷静になってくるとその行為事態がとてもくすぐったい。




「ふふッ……」

 思わず、笑みが溢れた。


「あれ、もう笑ってるじゃないですか」

「ホントだね。なんか、あのー。うん、君島くん、ありがとう」




 少し離れて改めてお礼を言った。

 照れくさいわ。恥ずかしいな、やっぱり。赤面する私に彼はまた優しく微笑む。




「いえいえ。こんな俺でも役になったなら」

「君といると元気になるわ。なんかよくわかんないけど、癒されるみたい」




「嬉しいです。夢羽さんにそう言って貰えて」



 彼の笑顔を見て思う。こんな男を好きになれたら、幸せになったかもしれないって。彼も芸能人だ。しかも若手俳優ってやつ。スキャンダルは嫌だろう。好きなオトコじゃなくても友人として彼といたい……彼を見ているとそう思わずにはいられなかった。