恥ずかしくて彼の顔なんか見れない。だけど、か細い私の声は彼に届いていたようだった。





「勿論! ああー……ペンとかないし!」





 書くものがない、と君島くんはワタワタしている。そんな様子を見ていたタクシーのオジサンが痺れを切らしたように「お客さん、早くしてくんない」と、急かした。





「あっ! オジサン、ペン貸して!」
「……仕方ねぇなぁ。ほらよ」




 オジサンはペンを彼に投げてよこす。彼は無邪気に「ありがと!」と満面の笑顔を浮かべていんだ。それを見ただけでもなんだか寂しかった気持ちを忘れた気がしたんだ。





「これ、俺の電話番号とメアド」
「ちょ!」




 徐に私の服の袖を捲って私の腕に大きくペンで殴り書きをする。怒る気さえも失せるその笑顔に私も呆れながら、微笑み返した。





「絶対、連絡ちょーだいね!」

 おいおい、さっきまでの敬語はどうした、君島くん。





 私の心はいつの間にかポカポカしていたのだった。