私がキョトンとした顔をしたまま無言でを察した彼は慌てて「ジャケ撮りで共演させていただいた君島有生です」と答えた。そこで漸くボヤけていた残像がはっきりと形を成した。





「ああ! 君島くん!」
「はい、一言お礼言いたくて。先輩も行ってこいって言ってくれたので追いかけてきちゃいました」





 息切れしている彼の顔は赤い。不意に今日のジャケ撮りを思い出した。
 切ない表情。照れた彼。





 そんなことを考えながらも話を続ける。





「先輩?」
「俳優仲間の先輩なんですが、今日はその先輩と飲んでたんですよ。違う出入り口から出ちゃったから、MUさんとぶつかっちゃいましたね。スミマセン」






「ああ、そっかそっか。私もちゃんと前見てなかったかもだし。ごめん、ごめん。というかこちらこそ、PVにも出てもらっちゃって。出演してくれてありがとね。こっちは演技は素人だから、何気に緊張しちゃったし」





 いつも、何に対しても私は本気だけれど、毎日のように演技の稽古をしてる彼らからしたら、私の毛の生えたような演技など演技とも言えないだろう。そんなことは百も承知だ。





「え? そんな風には見えませんでしたよ?」




 社交辞令もわかってる。だけど、私自身は嘘は言いたくない。





「またまた。俳優さんから見れば歌手の演技なんて大根もいいとこでしょ。君島くんのが凄かった。照れた表情とか切ない感じとか自然だったもん」





 そう、実際、彼の演技はとても自然だったんだ。





「いや……あれは……ハハハ」





 そんな彼は今も照れたように笑う。




 素直に言葉を受け取る人は久しぶりだった。