味のわからない酒なんてもうやめて家に帰ろうかと思ったけど、家にはやっぱり帰りたくなかった。ワインを2本開けたところでトイレに行く時ふらいつたのを感じて飲むのをやめた。
かなり酔っているので幾分か寂しさは軽くなっているのかもしれない。
会計を済ませるとタクシーを呼んでもらった。
……酔っているとは言え、やっぱり帰る時は独りだって実感する。一歩、一歩がなんだか重い。
「やば……涙、出そう」
こんな独り言さえもなんだか虚しいし。それでも言ってしまうのはきっと独りの時間が長すぎるから。出そうになった涙を必死に引っ込めようといつの間にか私は立ち止まってた。
ハンドバッグのチェーンをギュッと握り締めて前を向いて歩いた。どんなに孤独になっても仕事だけはある。歌だけは私を裏切らないんだ。そのためにも少しは休まないと。
勢いよく踏み出した一歩は何かに遮られた。
「イタっ!」
鼻の頭がぶつかって思わず目を瞑る。
「ッ! スミマセン……って……あ、MUさん、ですよね?」
どうやら、少し先に停めてもらったタクシーの先から誰かが走ってきたようだった。
やばい、やばい……こんなところで一般人に見つかった。
どうか、どうか絡まないでくれ。吉井マネにまた怒られる。
恐る恐る、グラサンをずらして相手の顔を見たら、驚いた顔の男の子が私を見てる。
「今日はお疲れ様でした。僕の下手な演技でご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」と深々と頭を下げる彼。彼のつむじを見ながら考える。見たことはあるような……気がする。
……でも、誰だっけ?

