「……くっだらな……あ」

 つい、心の声が口から出てしまった。
 『え?』驚いた声に私も焦る。



「怜くんのことじゃないんだ。私自身のこと。ごめん、怜くん」




『……ホントだよ、声が聞きたかったって』





 それでもさ。30歳過ぎた女には素直になれる要素がまだ足りないんだわ。自分でも可愛くないってわかってる。それでも強がらずにはいられないんだ。





「ははっ……何、ソレ。用がないなら切るよ?」





『冷たい、夢羽さん。仕事中は頼ってくるくせに』






「……当然でしょ。“仲間”だもん」





『仲間……ネ』

「怜くんには感謝してるよ。頼りにもしてるし」





 付かず離れず。この距離を保ってないときっと何かが崩れる。そんな気がした。





『……』

 でも、電話の向こうの怜くんが何も喋らないととても不安になった。





「怜くん……?」
『……いや、なんでも。夢羽さん、夜更かししすぎないようにね』





「わかってるよ」
『お肌に悪いからね』
「わかってるって」

 寂しい。
 ホントはすごく寂しい。

 疲れてるんだから、家に帰って早く寝りゃいいんだけど、寂しすぎてできない。だからといって、怜くんに『会いに来て』なんて言う勇気もない。怜くんの優しさを利用する気にはどうしてもなれなかった。





「も、切るね……」
『!……待って、夢羽さん!』
「?」
『…………おやすみ』
「……おやすみ」

 電話の向こうで私を引き止める声に何を期待したんだろう。さっきよりも気持ちが沈み込んだ。運ばれてきたワイングラスに口をつけて生ハムをつまんでも、どんな味かもわからない。




 どこにいても私は独りなんだって思った。