なんか。
緊張してんのはなんでだ。
いや、理由はわかってんだ。
彼が俳優のくせに赤面とかするから。
……?
それもあれは演技か。
だとしたら、相当いい俳優なのかもしれない。
そう思ったら、自分の気持ちも少し落ち着いてきた。
「MU、いい表情してんじゃん」
多田カメラマンはまたシャッターを切りだした。
眩いストロボの中で伶くんの言ったとおり彼を見つめた。
すると、少し俯く彼。
「もっと近寄って」
多田カメラマンの指示に私が彼に近づく。
目を瞬かせる背の高い彼の腕の中に収まると、小さく彼の口から「あ……」と声が漏れた。カメラに映らないように「どうしたの」と聞くと、また小さく「いえ」と返事が返ってきた。
「有正くん、MUの肩掴んで顔近づけてみて」
多田カメラマンの指示に彼はぎこちなく離れてから私の肩を掴んだ。
勿論、その際も彼から目を離すことなどしない。
あと数センチ。数センチで唇がくっつきそうなその瞬間に少しだけ目を伏せた。
「はい、オッケー! いい画撮れたよ、MU!」
唇はくっつかないまま。
キスはしないまま、彼は離れた。
そして彼は少しだけ微笑む。
私もその微笑みににっこりと笑いかけた。
「お疲れ様」と彼に声をかけて去ったら、後ろから彼の元気な「お疲れ様です!」という声が聞こえた。
その声に振り向かず、手でバイバイをして答えた。
スタッフやカメラマンにも挨拶をしてスタジオを出て深呼吸。
そのあとやっと私は楽屋に戻ったんだ。

