視線を少しずらすと丁度、セットの小物の鏡に自分の顔が映った。
自分の顔がなんじゃ、この顔はって感じになってる。
赤面していたわけじゃない。
なんつーか。驚いてる、みたいな。“片想い”なんてテーマはどこにいった、みたいなそんな表情だった。
「MU、どうした?」
「え?」
突然カメラマンの多田さんに呼ばれて振り向く。
私の顔を見た多田さんは深い溜息をついて「……休憩入れようか」と、カメラを置いてしまった。
ピン、と張り詰めていた空気はその一言でスタッフのガヤガヤした声に包まれていく。
何やってんだ、私。
こんなはずじゃなかった。
用意されたミネラルウォーターに口をつけてまた伶くんに化粧を直してもらった。
「夢羽さん、どしたの。らしくないじゃん……少し口あけて」
赤い口紅をまたのせると伶くんの冷たくて長い指が顎にあたる。
「……別に」
ぶっきらぼうにそう言ったら、苦笑した伶くんは「なんでもなかったら、こんなふうにならないでしょ」と言ってグロスをのせた。
それはそうだ。だから、この状況を打開するためには妙な意地は捨てたほうがいいかもしれない。顎にあたっていた彼の手を自分の手で避けて私は言った。
「なんか……いつの間にか顔作れなくなってた。自分でもわかんない」
「いつから?」
「途中から」
なんだかあまり言いたくない核心の部分を細かく聞いてくる伶くんに気まずさを覚える。
「どのあたり?」
「振り返って彼と対面した時から」
それを言ったら、伶くんは何故か面白くなさそうな顔をしたんだ。
「ふぅん……」
「……伶くん?」

