何気なく、セネリオが手を差し出す。

 そのことにアリエルは首を傾げるが、ひらひらと動かされている手を見て、何を言っているのか悟る。

 アリエルは慌てて受け取ったカードを両手で返すと頭を垂れ、素敵な服を購入できたことに満面の笑顔を浮かべながら感謝する。

「さて、行こうか」

「次は、何処へ……」

「うーん、どうしようか」

 次に行く場所を決めていないらしく、セネリオは椅子から立ち上がっても動こうとしない。


 なかなか場所を決められないセネリオであったが、だからといってアリルエが口を出すわけにはいかない。

 その場で立ち尽くし、セネリオが考えを纏めるまで静かに待つことにした。

 数分後――

 セネリオが、口を開く。

「部屋に行っていい?」

「えっ!?」

「駄目?」

「そ、その……」

 ハッキリと「来ては駄目」と言うことができればいいが、アリエルの性格上きちんと言えるものではない。

 何と言いたいのか迷っているアリエルの姿にセネリオは「迷っているのならいい」と、諦める。

 アリエルの部屋に行けないことに不満……というか残念な思いが強かったのだろう、セネリオは嘆息する。

 肩を落としているセネリオにアリエルは申し訳ない思いが強まるが、隠れて飼育しているミーヤが見付かってしまうので、誰かの立ち入りを許すわけにはいかなかった。

「あ、あの……」

「うん?」

「もし、宜しければ行きたい場所が……」

「何処かな?」

「海を見たいです」

「海?」

「海は、大きい湖と聞きました」

「湖というか、海はもっと大きいね」

 その話にセネリオは「見たことがない?」と、聞く。

 それに対しアリエルはコクコクと頷くと、そういう場所があることは耳にしていたが、実際に見たことはないと話す。

 侍女仲間からあれこれと海について聞いたので、いつか見てみたい――と、前々から思っていたという。