「どうして?」

「……目立ちます」

「ああ、そうか」

 自分達に向けられている視線に気付いたらしく、セネリオは納得するかのように手を叩く。

 一方押されることから解放されたことに、アリエルは安堵の溜息を付く。

 セネリオとは違い視線の裏側に隠されている‘何か’を感じ取ったのだろう、微かに頬を紅潮させていた。

「何故、見る」

「クレイドは、目立ちますので……」

「そう」

「イシュバールの後継者ですから」

「それ、言われたくない」

 囁くように発したのは、セネリオの本音。

 勿論、周囲が自分に向けている期待を理解しているが、今はアリエルとの買い物を楽しみたいので〈クレイド〉と呼んでも〈後継者〉とは言ってほしくなかった。

 セネリオの囁きは、アリエルの耳に届いていた。

 また、顔色の変化にアリエルは失礼なことを言ってしまったと悟る。

 しかし、ここで謝ればますます気分を害してしまうと思い、言葉を発することができない。

 ただ、二人の間に漂うのは、微妙と呼べる重苦しい空気だった。

「アリエル」

「は、はい」

「行こう」

「何処へ」

「買い物だよ」

 〈後継者〉と口に出して機嫌を悪くしたのか、セネリオの声音がいつもと違う。

 怒られるのではないかと勘違いしたらしく、セネリオに呼ばれてもアリエルは動くことができない。

 その場で佇んでいるアリエルに首を傾げると、どうして一緒に行ってくれないのか問う。

「怒ってらっしゃると……」

「怒る?」

「お声が……」

「それで……か」

 怒っていると勘違いしたから、アリエルが動いてくれなかった。

 理由が判明した途端、セネリオは自分が呟いた本音を聞かれてしまったと渋い表情に変化するが、これがいい機会だと嘆息する。

 そして手招きでアリエルを側に呼び寄せると、自身が抱く本音を語っていく。